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2026年10月版 · 評価基準 GNT-BDS v1.1.1 · 最終更新 2026-10-23日本語 / English
Japan IR Index英文開示・株主コミュニケーション調査

株主総会・対話で問われる論点 02

PBR1倍割れと資本コスト

東証が2023年3月に「資本コストや株価を意識した経営」を要請して以降、開示している会社は増えました。株主提案で問われているのは、開示の有無ではなく中身です。「資本コストを上回るリターンを、いつ、どう実現するのか」に数字で答えているかを、実際の提案と回答で確認します。

2026年10月19日作成。出典は2026年10月24日に再確認しました。賛成率などの数値は臨時報告書・会社の開示によります。

実際に出ている問い

株価は上がってきたが、市場は会社の対策がまだ不十分だと評価している。発行済株式の約10%を取得・消却し、配当は株主総会でも決められるようにすべきだ。

ステラ ケミファ(4109)2025年 株主提案の提案理由(Nippon Active Value Fund)の要約。

株価は5年間でTOPIXを86.1%下回った。ROEを高めるため、発行済株式の9.9%の自己株式取得を行うべきだ。

東洋製罐グループホールディングス(5901)2021年、オアシス・マネジメントの公表声明の要約。

資本コストの開示が、資本効率を改善する具体策に触れていない。表面的な分析・評価にとどまっている。

山洋電気(6516)2026年 株主提案の提案理由(ストラテジックキャピタル)の要約。論点01で詳述

回答に含めるべき要素

提案はどれも「資本コストを開示しているか」ではなく、「開示した数字と現状の差を、どう埋めるのか」を尋ねています。

  1. 資本コストの水準と算定方法(株主資本コスト、WACC)を数字で。F7S1
  2. 現状の率直な自己評価:ROE・PBR・PERの推移と、ROEが資本コストを下回っているかどうか。特殊要因を除いた数字も。
  3. 目標と期限:ROE○%以上を何年度までに。S1
  4. 差を埋める打ち手の分解:収益性(利益率)、資本(還元、負債の活用、現預金の水準)、市場評価(開示・対話)に分けて。
  5. 定期的な更新:年1回以上、前回からの進捗と未達の理由。S7
  6. 提案された施策を採らない理由:規模や時期の比較を数字で(例:提案の自己株式取得額と予想純利益の比較)。
  7. 英文で同じ日に:更新開示、取締役会意見、議決権行使結果。R3G6

事例:ステラ ケミファ(4109)2025〜2026年

提案株主
Nippon Active Value Fund(ダルトン・インベストメンツと共同。ダルトンは2025年4月3日に議決権の15.82%で筆頭株主に。会社の開示による)
提案
2025年:4議案 2026年:1議案
結果
いずれも否決(最高47.22%)
  1. 総還元性向100%を目標とする還元方針を策定
  2. 株主提案の書面:配当等を総会でも決議できる定款変更、約10%(55.77億円以内)の自己株式取得、社外取締役の過半数化、譲渡制限付株式報酬
  3. 第4次中期経営計画(ROE8%以上、3年累計の総還元性向100%以上、年間配当170円を下限)と、全議案に反対する取締役会意見を同日に公表
  4. 総会:配当決定の定款変更は賛成47.22%(可決には3分の2が必要)、社外取締役過半数化26.71%、株式報酬30.82%で否決。自己株式取得は前提議案の否決で付議されず。社長の再任は89.21%
  5. 「資本コストや株価を意識した経営」のアップデートを公表
  6. 2回目の提案(総会の基準日に関する定款変更。有価証券報告書を総会の十分前に開示するため)。取締役会は反対しつつ、早期開示を検討中と表明
  7. 総会:株主提案は賛成24.48%で否決。社長の再任は97.30%
  8. 筆頭株主の異動を開示:FUKADA社と共同保有者(14.97%)が筆頭株主に、Dalton Investmentsは筆頭株主でなくなった
  9. アップデートを再公表し、上限19億円(発行済株式の2.5%)の自己株式取得を決議

回答が答えた点

  • 還元の実績を数字で示した:総還元性向は2023年3月期91.4%、2024年3月期101.5%、2025年3月期107.0%。
  • 提案の自己株式取得(55.77億円)を、2026年3月期の予想純利益27億円の2倍超と比べて「過大」とした。反対の理由が数字で示されている。
  • 2026年8月のアップデートは、ROEが想定株主資本コスト(7〜8%)を下回ったままであること、PBRは約1.2倍に上昇したこと、現預金には「さらに削減の余地がある」ことを、自ら認めている。
  • 英文:中期経営計画は日英同日(S1 = 5)、株主提案への意見書・アップデートを含む適時開示は全件英文同日(R3 = 5)、議決権行使結果も英文で賛否の数まで(G6 = 5)。

答えていない点

  • 目標とする資本構成や現預金の水準を数字で示していない。2026年3月期は第三者割当による自己株式の処分で自己資本比率が上がった。
  • 前中計のROIC未達(目標6.2%に対し6.0%)と目標の下方修正の理由が説明されていない(S7 = 4)。
  • 有価証券報告書は2025年、2026年とも総会の前日に開示。早期化は「検討中」のまま。
  • 政策保有株式とコーポレート・ガバナンス報告書の英文がない(G7・G1 = 該当なし)。

2025年と2026年の賛成率は、議案の内容が異なるため直接比較できません。社長の再任賛成率(89.21%→97.30%)の変化には、筆頭株主の異動など回答以外の要因も含まれます。

事例:東洋製罐グループホールディングス(5901)2021〜2026年

提案株主
オアシス・マネジメント(2021年)
提案
5議案(自己株式取得、相談役廃止ほか)
結果
全議案否決(6.92〜26.75%)
2021年6月25日 第108回総会 株主提案賛成率
相談役・顧問等の廃止(定款)26.75%
自己株式取得18.58%
TCFDを踏まえた計画の開示(定款)14.31%
業績連動型譲渡制限付株式報酬7.08%
監査等委員会設置会社への移行(定款)6.92%
(参考)会社提案 社長の再任80.28%

提案はすべて否決されましたが、会社はその後、資本政策を大きく変えています。2023年5月12日に資本効率の向上策(英文資料では Capital Efficiency Initiative 2027)を公表し、2023〜2027年度の5年間で1,000億円の自己株式取得を掲げました。2026年5月の「中期経営計画2030」は、次の内容を英文でも示しています。

回答が答えた点

  • 未達(PBR1.0倍未満)と、特殊要因を除いたROE(5.9%)を自ら示した。差の認識が数字で共有されている。
  • 還元方針をDOEで示し、残りの自己株式取得額と期限を明記。
  • 英文:決算説明資料は毎期、日本語と同じ補足資料つき(S2 = 5)。

答えていない点

  • 英文の決算短信は表紙のみ(F1 = 2)。資本コスト以前に、毎期の実績が英文で読めない。
  • 議決権行使結果の英文がない(G6 = 該当なし)。2021年の賛成率も日本語の臨時報告書でしか読めない。
  • 政策保有株式の残高と縮減目標が計画に示されていない(論点03)。

2021年の提案から2023年の方針転換までの間に何があったかは、公表資料からは確認できません。順序のみを示します。

参考:山洋電気(6516)

2025年3月に資本コストとPBRの現状認識を公表し、2026年5月の第10次中期経営計画で株主資本コスト「おおむね7〜9%」、ROE10%以上、5年間のキャッシュアロケーションを示しました。PBRは0.8倍前後から1.2倍(2026年3月末)に上昇しています。株主提案は中計公表の翌日に全件取り下げられました。論点01の事例を見る →

出典